第7回(2013年)日本物理学会若手奨励賞 (素粒子論領域)


 受賞者は、長井 稔 氏、米倉 和也 氏の2名です。

受賞者 : 長井 稔 (東京大学)
対象業績:「超対称素粒子模型における電気双極子能率について」
対象論文:
[1] "New Two-loop Contributions to Hadronic EDMs in the MSSM"
   J. Hisano, M. Nagai, P. Paradisi, Phys. Lett. B 642 (2006) 510-517
[2] "Electric dipole moments from flavor-changing supersymmetric soft terms"
   J. Hisano, M. Nagai, P. Paradisi,  Phys. Rev. D78 (2008) 075019
[3] "Flavor effects on the electric diploe moments in supersymmetric theories:
    A beyond leading order analysis"
   J. Hisano, M. Nagai, P. Paradisi, Phys. Rev. D80 (2009) 095014
受賞理由:
 超対称素粒子模型は、標準模型を超える素粒子模型の有力な候補と
されている。 長井氏はCPの破れに注目し、電気双極子能率に対する
超対称粒子の効果について新たな知見を得た。電子やハドロンの電気
双極子能率は、標準模型において は極めて小さい値をとることが予
言される。しかし超対称模型では小林・益川 行列以外の新たなCPの
破れの起源が存在し得るため、電気双極子能率が観測可能な大きさと
なり得る。特に長井氏は、荷電ヒッグスボソンや荷電ヒグシーノが伝
播するダイアグラムの重要性を指摘した。さらに長井氏はそれらのダ
イアグラムの効果を定量的に解析し、広いパラメータ領域で大きな電
気双極子能率を導くことを明らかにした。今後超対称模型を検証する
上で、CPの破れのシグナルの探索は重要な役割を果たすと期待される。
対象論文で得られた結果は超 対称模型における電気双極子能率の計
算の信頼性を格段に向上させるものであり、今後の電気双極子能率計
測実験に対しても大きなインパクトを持つものとして、高く評価でき
る。



受賞者  : 米倉 和也(Institute for Advanced Study)
対象業績 : 超対称ゲージ理論におけるアノマリーパズルについて
対象論文 : 
[1] "Notes on Operator Equations of Supercurrent Multiplets and
  Anomaly Puzzle in Supersymmetric Field Theories"
  K. Yonekura, JHEP 1009 (2010) 049
[2] "On the Trace Anomaly and the Anomaly Puzzle in N=1 Pure
  Yang-Mills"
  K. Yonekura, JHEP 1203 (2012) 029
受賞理由 : 
 超対称ゲージ理論において、R 対称性に対応する軸性カレントとエネ
ルギー運動量テンソルとが一つのスーパーカレント超場の成分として
含まれ、軸性アノマリーとエネルギー運動量テンソルのトレースアノ
マリーが超対称性で結びつくことが知られている。しかし、この事実
は、軸性アノマリーが 1-loop exact であるのに対し、トレースアノ
マリーは 2-loop 以上の寄与を含むことと矛盾し、80年代から問題と
されてきた。この問題はアノマリーパズルと呼ばれ、折にふれていろ
いろな人々によって議論されてきたが、未だに完全に明快な形で解消
されたとは言えず、今でも度々議論になっている。米倉氏は上記の2
つの単著の論文において新たな視点からこのアノマリーパズルに対す
る解答を提案した。まず、第一論文では、2010年に Komargodski と 
Seiberg によって提唱された新しいスーパーカレント超場の満たす方
程式に従来のものにはない余分な項があることに注目し、この項が軸
性アノマリーとトレースアノマリーのミスマッチを解消する役割を果
たすことができるという明快な議論を与えた。そして、(ある繰り込
みスキームにおいて)それを実現する具体形を提案し、さまざまな角
度からその正しさを裏付ける議論を行った。この提案によると、特に、
超対称ヤン・ミルズ理論の場合にはトレースアノマリーに現れるベー
タ関数が 1-loop exact なものであることが予言され、これによって
アノマリーパズルが解消されることになる。第二論文では、この事実
を注意深い計算によって確かめた。これらの研究は、懸案のアノマリ
ーパズルの解決に向けた明快な道筋を示し、超対称ゲージ理論に対す
る新たな知見を与えた重要な研究であり、若手奨励賞に相応しいもの
であると考える。
 なお、推薦書には対象論文として上記の第一論文しか挙げられていな
かったが、第二論文も加えるのが適当であると選考委員会で判断した。"

-------------------------------------------------------